「ベル・カント唱法」の誤りと「ドイツ唱法」の錯覚

まず初めに「ドイツ唱法」は存在致しません。 クラシック番組やネット等で、誤った解釈で説明されているのを見て、私は大変驚きました。

そこには、イタリア・オペラを歌う「ベル・カント唱法」とドイツ・リートを歌う「ドイツ唱法」では、横隔膜の使い方が180度相反するものである。 「ドイツ唱法」ではブレスを吸ってから横隔膜(腹)の状態を保ちながら力を入れて発声するのに対し、「ベル・カント唱法」では下腹部を徐々に押し上げながら、自然に横隔膜が上がるに任せて発声する。
すなわち、両方を同時に学ぶことはできないのです。こう説明されているのです。これは、どちらも間違いです。

近年では、イタリアに留学する日本人歌手も増え、「ベル・カント」と称し、誤った歌唱法を持ち込んでしまったと私は解釈しています。その結果「ドイツ唱法」というものも生まれてしまったのでしょう。
一流の音楽大学でもこのように指導されている声楽講師がいらっしゃるようです。
しかし、優れた歌手で横隔膜をほったらかしにして歌っているのを、私は今まで聴いたことがありません。

歌はどのジャンルを問わず、まず息を吐き切ることが大切なのですが、歌っている時に横隔膜を自然に上げるということは、呼吸をコントロールすることもできない上に一緒に喉も上がり、かえって力んでしまい高音で最悪な結果を招くことでしょう。
もちろん、吸った息を保つために横隔膜に力が入ってしまうのもいけません。 正しくは、ブレスを吸ってから丹田で呼吸を支え(吸って広げたお腹を保ったまま)、横隔膜で息をコントロールしながら発声することです。


オペラとポップスの歌唱法は同じ原理

では、世間に出回り使われている言葉「ベル・カント唱法」と「ドイツ唱法」の違いとは何か…。
私がはっきり申しますと、原理は同じです。
これは後に述べるJ-POP、洋楽、ROCK、ミュージカルにも繋がりますが、言語(発音)や表現様式が異なるだけです。 つまり、言語が異なるということは、発声も変われば息の当て方で響きも変わるのは当然なのです。

そして、現在多くの声楽家が生徒に指導し解釈されている「ベル・カント唱法」(コーネリウス. L. リード著『ベル・カント唱法』/フレデリック・フースラー著『うたうこと』)は、私からすると「ベル・カント」ではありません。
なぜなら、18世紀前半以前のバロック時代に「ベル・カント」は終焉しているからです。 その時代のものは音源にも残っていないので、聴くことはできません。
つまり、レコードに残っている「ベル・カントの黄金時代」と呼ばれる歌手、それを理想とする産物は18世紀以降に生まれた別物の「ベル・カント唱法」なのです。

ちなみに、現在J-POP、洋楽、ROCK、ミュージカルを問わず、ヴォイス・トレーナーの多くに使用され一般にも広まっているのが、コーネリウス・リード著「ベル・カント唱法」の理論です。 これは、真の「ベル・カント唱法」とは異なるため、現在この理論が教材として使用されていると私は解釈しています。
つまり、現在の「ベル・カント唱法」と「ポップスの歌唱法」には、言葉や表現様式は異なっていても、基本となる声区「チェスト・ヴォイス」「ミドル・ヴォイス」「ヘッド・ヴォイス」と身体の原理はオペラもポップスも全く同じなのです。



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